目上の人との食事は緊張するものですよね。
上司との会食、取引先との食事会、親族の集まり、恩師との会食など、様々な場面で食事のマナーが問われる機会があります。
特に初めての場合は「どこに座ればいいの?」「箸の使い方は正しい?」「会話の内容は適切?」など、不安が募るものです。しかし、基本的なマナーさえ押さえておけば、そんな不安も解消できます。
この記事では、日本の伝統的な上座・下座の考え方から、食事前の準備、食事中の振る舞い方、食事後のフォローまで、実践的かつ詳細に解説します。
これを読めば、次の食事の場で自信を持って振る舞えるようになり、目上の人に好印象を与えることができるでしょう。
上座・下座の基本知識
上座・下座とは何か
上座とは「客人や目上の人が座る席」、下座とは「主催者や目下の人が座る席」のことです。簡単に言えば、上座は「名誉ある席」、下座は「控えめな席」と覚えておくといいでしょう。この席次の考え方は、日本の伝統的な礼法から来ています。なぜこれが大切かというと、席順は相手への敬意を示す重要な要素だからです。間違えると「この人は礼儀を知らない」と思われてしまうこともあります。特にビジネスの場では、こうした細かな配慮が信頼関係を築く基盤となります。
場所による上座・下座の違い
場所や座席の配置によって上座・下座の位置は変わります。主なパターンを詳しく見ていきましょう。
和室の場合:
- 上座:床の間に近い席、または入口から最も遠い席
- 下座:入口に近い席
- 理由:床の間は最も格式高い場所とされ、また入口から遠い場所は安全で守られた場所という考えがあります
個室や座敷の場合:
- 上座:窓側の席、または景色の良い席
- 下座:ドア側の席、または通路側の席
- 理由:窓側は景色が楽しめ、また不意の来客にも対応しやすい席とされています
洋食レストランの場合:
- 上座:入口から見て奥の席、または壁側の席
- 下座:入口に近い席、または通路側の席
- 理由:奥や壁側は落ち着いて食事を楽しめる場所だからです
円卓の場合:
- 上座:入口から最も遠い席、または景色がよく見える席
- 下座:入口に近い席、または厨房側の席
- 理由:入口から遠い席は全体を見渡せる位置にあり、また出入りの煩わしさがないからです
カウンター席の場合:
- 上座:中央に近い席、または店主と会話しやすい席
- 下座:端の席、または出入口に近い席
- 理由:中央は店主の腕前が最もよく見える特等席と考えられています
迷ったときは「目上の人に見晴らしの良い席、落ち着ける席を譲る」と考えるといいでしょう。また、現代では厳密にこだわらない場面も増えていますが、基本を知っておくことで適切な判断ができるようになります。
職場や年齢による上座・下座の判断基準
上座・下座を決める際の基準は主に以下の通りです:
- 役職の高さ(社長 > 部長 > 課長など)
- 年齢(年上 > 年下)
- 客人か主催者か(客人 > 主催者)
- 取引関係(お客様 > 営業側)
- 男女の区別(現代ではあまり重視されませんが、伝統的には男性 > 女性)
職場の宴会では、役職の高い上司が上座に座るのが基本です。同じ職位なら年齢が上の人が上座になります。また、取引先との食事では、あなたが招待した場合でも、取引先が客人として上座に座ります。家族の集まりでは、祖父母や両親など年長者が上座に座ることが多いです。
迷った時の対処法
上座・下座を迷った時の対処法も知っておくと安心です:
- 案内される場合は、案内に従う(店員やホストの判断を尊重する)
- 事前にレイアウトを確認できる場合は、お店に上座の位置を確認しておく
- 目上の人に「こちらにどうぞ」と席を勧める
- 複数の目上の人がいる場合は、一番上の方に選んでもらう
食事前のマナー
到着時間と服装の選び方
到着時間: 5分前に到着するのがベスト。早すぎると相手に準備の焦りを与え、遅すぎると失礼になります。15分以上前に着いてしまった場合は、近くで時間を潰すか、店内で待機するにしても席には着かないようにしましょう。万が一遅れそうな場合は、必ず連絡を入れ、予想到着時間を伝えましょう。
服装: 場所と目的に合わせた服装を選びましょう。基本的には「清潔感」が大切です。
- ビジネスの場:ビジネスカジュアルか、それより少しだけカジュアルな服装
- 男性:ジャケットにノーネクタイ、または襟付きシャツとチノパン
- 女性:ブラウスにスカートまたはパンツスーツ、シンプルなワンピース
- フォーマルな場:ジャケットやスーツが無難
- 男性:ダークスーツにネクタイ
- 女性:スーツまたはフォーマルなワンピース
- カジュアルな場:過度に砕けすぎない清潔感のある服装
- 男性:襟付きシャツとチノパン、または清潔なポロシャツ
- 女性:カジュアルなブラウスとパンツ、またはカジュアルワンピース
靴や小物も清潔感のあるものを選び、香水は控えめに、アクセサリーは派手すぎないものを選びましょう。
予約と事前準備
高級店や人気店では、予約をする際のマナーも大切です:
- 予約は2週間前〜3日前が理想的
- 参加人数、予算、食事制限などを事前に伝える
- キャンセルする場合は、できるだけ早く連絡する
- 席や個室の希望があれば予約時に伝える
- 当日の連絡先を伝えておく
また、事前準備として以下のことも行っておくと安心です:
- お店の場所と行き方を確認しておく
- 話題に困らないよう、時事ネタや相手の関心事を調べておく
- 会計の準備(カード・現金)を整えておく
- 名刺やハンカチなど、必要なものを確認しておく
席への案内と着席方法
- 案内されるまで席に座らない
- 目上の人が座るのを待ってから座る
- 目上の人の正面に座るのは避ける(質問攻めにしているように見える)
- バッグやスマホは邪魔にならない場所に置く(テーブルの上には置かない)
- 椅子に座る際は、椅子を引く音が大きくならないよう注意する
- 背筋を伸ばして座る(だらしなく座らない)
- テーブルに肘をつかない
特に注意したいのは「勝手に上座に座らない」こと。案内されるまで待ち、指定された席に座りましょう。もし自分で席を選ぶ場合は、目上の人に上座を勧め、自分は下座に座るようにします。
食事前の挨拶と会話の心得
挨拶: 簡潔に「本日はお招きいただきありがとうございます」など感謝の言葉を述べましょう。長々と話す必要はありません。乾杯の音頭を取る場合は、短く簡潔に「皆様の健康と成功を祈って、乾杯」などと言いましょう。
会話の心得:
- 政治・宗教・差別的な話題など賛否が分かれる話題は避ける
- 相手の話を遮らない(相手の話が一段落してから自分の話をする)
- 適度に相づちを打つ(「なるほど」「そうなんですね」など)
- 質問を準備しておく(相手の趣味や最近のニュースなど)
- ネガティブな話題は避ける(愚痴、不満、他人の悪口など)
- 声のトーンと大きさに注意する(大きすぎず、小さすぎず)
- 会話が途切れた時のために話題をいくつか用意しておく
話題選びのコツ:
- 相手の最近の活動や成果について(「最近の〇〇プロジェクトは順調ですか?」)
- 時事ネタやスポーツ(「最近の〇〇チームの活躍はすごいですね」)
- 共通の関心事(「〇〇さんも料理がお好きと伺いました」)
- 食事や料理について(「このお店の〇〇は絶品ですね」)
- 季節の話題(「この季節の〇〇は素晴らしいですね」)
ナプキンと食前の準備
ナプキンの使い方:
- ナプキンは料理が来る前に膝の上に広げる
- 一時的に席を外す場合は、椅子の上に置く
- 完全に食事を終えるまでナプキンをテーブルに戻さない
- 食事後は軽く折りたたんでテーブルの左側に置く
食前の準備:
- 水やドリンクが出されたら、全員の分が揃うまで待つ
- 乾杯の音頭があれば、それまで飲み物に手をつけない
- アレルギーや食べられないものがあれば、最初に伝えておく
- 料理の説明がある場合は、しっかり聞く
食事中のマナー
正しい箸の使い方と禁忌
正しい箸の使い方:
- 箸は真ん中より少し上を持つ
- 上の箸だけを動かす
- 食べ物を刺さない
- 箸先で料理をさぐらない
- 箸を持つ手の肘はテーブルにつけない
- 箸を持たない方の手は、テーブルの縁かナプキンの上に軽く置く
箸の禁忌(箸使いのNG):
- 箸渡し:箸から箸へ食べ物を渡す(お葬式の作法)
- 刺し箸:食べ物に箸を刺す
- 涙箸:箸先で料理の汁を垂らす
- 迷い箸:箸先を料理の上で迷わせる
- 寄せ箸:箸で器を引き寄せる
- 握り箸:箸を握りこぶしのように持つ
- 持ち上げ箸:器を箸で持ち上げる
- ねぶり箸:箸を口の中に入れたまま話す
- 指し箸:箸で人や物を指す
箸のマナーは日本文化の基本です。特に目上の人との食事では、正しい箸使いができているかどうかは、あなたの育ちや教養を示す重要な要素となります。
料理の取り分け方と取り分けられ方
取り分け方:
- 取り分ける前に「お取りしましょうか?」と一言添える
- 取り箸や取り皿を使う(ない場合は自分の箸の反対側を使う)
- 自分の箸の反対側(持っていない方)で取り分ける
- 目上の人に最初に取り分ける
- 綺麗な部分や良い部分を取り分ける
- 取り分けすぎないよう適量を心がける
- 取り箸は使用後、元の位置に戻す
取り分けられ方:
- 「ありがとうございます」と一言添える
- 断る場合は「ありがとうございます。後ほどいただきます」など丁寧に
- すぐに食べずに目上の人が食べ始めるのを待つ
- 取り分けられた料理はなるべく残さない
- 何度もおかわりをお願いするのは控える
和食特有のマナー
和食には特有のマナーがあります:
椀物(お吸い物など):
- 左手で椀を持ち、右手で蓋を取る
- 蓋は裏返して卓上に置く
- 具は箸で食べ、汁は口をつけて飲む
- 飲み終わったら蓋を元に戻す
刺身:
- 醤油皿に一度に大量の醤油を入れない
- わさびは醤油に溶かさず、刺身に少量つける(関東風)
- 刺身は一口大に切られているので、さらに小さく切らない
ご飯もの:
- 茶碗は左手で持ち、箸は右手で持つ
- 茶碗を口元まで持っていく
- ご飯粒を落とさないよう注意する
- 食べ終わったら茶碗と箸を元の位置に戻す
洋食のテーブルマナー
洋食では以下のマナーに注意しましょう:
ナイフとフォークの使い方:
- 外側から内側に向かって使う(コース料理の場合)
- ナイフは右手、フォークは左手で持つ(ヨーロピアンスタイル)
- ナイフの刃は内側に向ける
- 休憩時は、お皿の上で「ハの字」に置く
- 食事終了時は、お皿の上で「4時20分」の位置に置く(ハンドル側が4時、先端が20分の位置)
パンの食べ方:
- パンはちぎって一口サイズにして食べる
- バターは自分の取り皿に取ってから、パンにつける
- パンくずが落ちないよう注意する
スープの飲み方:
- スプーンは手前から奥に向かってすくう
- スプーンの縁でなく、側面から飲む
- 最後の一滴まで飲む場合は、お皿を少し傾ける(ただし高級店では控える)
お酌の仕方とお酒を勧められた時の対応
お酌の仕方:
- 両手でボトルを持つ
- 目上の人のグラスが空になったらお酌をする
- 「失礼します」と一言添える
- 注ぐ時は口ラベルを上に向ける
- グラスが8分目になったら止める
- 自分のお酌は控え、他の人にお願いする
- お酌をする順番は、目上の人から順に
お酒を勧められた時:
- 飲める場合:「ありがとうございます」と言って受ける
- 飲めない場合:「申し訳ありません。アルコールが弱いので、ソフトドリンクをいただきます」と丁寧に断る
- 運転する場合:「今日は運転のため控えさせていただきます」と断る
- 体調が悪い場合:「今日は体調が優れないので、申し訳ありませんが控えさせていただきます」と伝える
飲める場合でも、自分のペースを守り、酔いすぎないよう気をつけましょう。特にビジネスの場では、判断力を鈍らせるほどの飲酒は避けるべきです。
会話のマナーと適切な話題
食事中の会話には特に注意が必要です:
会話のタイミング:
- 口に食べ物を入れた状態で話さない
- 大きな声で話さない
- 話に夢中になって食事が冷めないよう注意
- 全員が話せるよう配慮する
適切な話題:
- 料理の感想(「このお料理、とても美味しいですね」)
- 最近の良いニュース
- 相手の趣味や関心事
- 季節の話題や文化的な話題
- 旅行や食べ物の話
避けるべき話題:
- 政治や宗教に関する議論
- お金の話(特に収入や値段の詳細)
- 下品な冗談や話題
- 病気や不幸な出来事
- 仕事の愚痴や不満
- 他の人の悪口
食事後のマナー
食事終了のタイミングと見極め方
終了のサイン:
- 目上の人が「そろそろ」と言い出した
- 目上の人が箸を置いた
- デザートやコーヒーが出た後、しばらく経過した
- 話題が仕事の締めや次回の約束などに移った
- 店員が「そろそろお時間です」と伝えてきた
急かすような態度は取らず、目上の人の様子を見ながら合わせましょう。ただし、時間に制約がある場合は、事前に「〇時までにお戻りの予定がございます」などと伝えておくとスムーズです。
食事が終わったら:
- ナプキンは軽く畳んでテーブルの左側に置く
- 使用した食器類はそのままにしておく(無理に揃えない)
- 席を立つ際は椅子を静かに元の位置に戻す
お会計の対応とお礼の言葉
お会計:
- 招待された場合:無理に支払おうとせず、「ありがとうございます」と感謝の言葉を
- 割り勘の場合:財布をすぐに出せるよう準備しておく
- あなたが支払う場合:さりげなく「今日は私が」と言い、スムーズに支払いを済ませる(目上の人の前で長々と会計をしない)
- クレジットカードを使う場合:事前にお店がカード対応しているか確認しておく
- 電子マネーやQRコード決済を使う場合:支払いがスムーズにできるよう準備しておく
お礼の言葉: 「本日はごちそうさまでした。とても楽しい時間でした」など、具体的に楽しかった点や学んだことに触れるとよいでしょう。例えば「〇〇のお話が大変参考になりました」「素晴らしいお料理をご馳走になり、ありがとうございました」などと伝えると誠意が伝わります。
別れ際の挨拶と後日のフォロー
別れ際:
- 「お気をつけてお帰りください」と一言添える
- 目上の人が乗る車やタクシーが見えなくなるまで見送る
- 立ち去る際は一度振り返って会釈する
- 共通の目的地がある場合は、目上の人の歩調に合わせる
後日のフォロー: 翌日か数日以内に、メールやLINEで「昨日はありがとうございました」と簡単なお礼のメッセージを送るとさらに好印象です。特に接待や重要な食事会の後は必ず行いましょう。例えば:
〇〇様
昨日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。
〇〇についてのお話は大変参考になりました。
また機会がございましたら、ぜひお話を伺いたいと思います。
敬具
△△
トラブル対応の心得
食事中にトラブルが発生した場合の対応も知っておきましょう:
料理のトラブル:
- 料理に異物が混入した場合:大声を出さず、さりげなく店員を呼んで伝える
- アレルギー食材が含まれていた場合:冷静に店員に確認し、対応を依頼する
- 料理が口に合わない場合:無理に食べず、残しても構わないが、批判はしない
マナーの失敗:
- 食べ物をこぼした場合:謝りすぎず、さりげなく処理する
- グラスを倒した場合:「申し訳ありません」と一言謝り、店員に対応を依頼する
- 箸やナプキンを落とした場合:新しいものを店員に依頼する
その他のトラブル:
- 体調が悪くなった場合:無理せず「少し気分が優れません」と伝え、必要なら席を外す
- 急な電話がかかってきた場合:「失礼します」と一言添えて席を外し、短く済ませる
- 予定より長引いた場合:次の予定がある場合は「大変申し訳ありませんが、次の予定がありますので」と丁寧に伝える
まとめ
目上の人との食事では、事前準備と基本マナーを押さえることが大切です。上座・下座の理解、食事前・食事中・食事後の適切な振る舞いを意識すれば、緊張せずに食事を楽しめます。何より大切なのは相手への敬意と感謝の気持ち。マナーはその気持ちを形にするためのものです。
完璧を目指しすぎると、かえって緊張して自然な会話ができなくなることもあります。基本を押さえたうえで、リラックスして相手とのコミュニケーションを楽しむことが、実は最高のマナーかもしれません。失敗しても、誠実な態度と思いやりがあれば許されることが多いものです。